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あらゆる面で大変お世話になっている、私の兄弟子・前田珈乱氏が、第二詩集『氷点より深く』を上梓された。

私たちの師・平居謙氏の批評を先に拝読していたがために、その印象・解釈を前提として読み進めたことをご承知おきいただきたい。

と、いうわけで、先にこちらの平居氏の批評をお読みください。以後その前提で話を進めます。

月刊 新次元 60号

一言で言うと、この詩集、大絶賛である。前田氏に便箋4枚に渡る感想を送り付けずにはいられなかったほど、私にとって、めちゃくちゃに刺さった詩集である。

自分の感覚で話して恐縮だが、これは仕事で立ち直れないほどの大きな挫折を経験したとき、ふと坂口安吾の堕落論を読んだ時の衝撃にかなり近い。

こういうのは理屈ではない。文学に救われるという経験は、この記事を読んでくださっている方にはお分かりいただけるはずだと信じているが、まさにそれである。

ただ「理屈ではない」じゃ話にならないので、なんとかこの「理屈ではなさ」に折り合いをつけていこう。

堕落論には「救われた」と心底思った。だが『氷点より深く』は私を「救った」わけではない。読んで得た感覚は近いが、生じた感情は別物なのだ。まあ当たり前っちゃ当たり前なのだけど。

通じることといえば、優れた、心に響く文学は、私を戦わせる。救おうがそうでなかろうが戦わせるのだ。『氷点より深く』は戦いに赴く者の詩集である。

『第一部 ウィンタールバイヤート』ゴングが鳴り響く。初っ端から『要するに』で度肝を抜くところから始まる。度肝を抜くというのは決してハッタリをかましているわけではない。純然たる勝負の開始を朗々と告げてくるのである。

そして、私たち読者はほぼ強制的に、この「今が旬」の冬生まれの男の共闘者になる。ここから、ものすごいスピード感をもって読者は詩集を読み進めることになる。比喩でなくページを捲る手が止まらないのである。

手がどんどん進み、前田氏の得意とされる視覚詩にドキドキしながら、まさに思考回路はショート寸前な中『第二部 日曜日の天使』がきらきらしく開幕する。

私は、この天使(女性)を倒してしまいたくてたまらなくなる。倒すと言うか、押し倒す? 物理的に。男性が女性に入れ上げて攻略したいという願望を体験することになる。否応なしに。私女なのに。しかし、私は冬生まれの男の共闘者なのだから仕方がない。

『第三部 不在の勝負師』

ここでふと、おや? と動作を止めることになる。不在? そう、不在なのだ。私が共闘していた男はどこに行ったのだ? ある意味突然突き放されるが、すぐに私は、本当は「誰」と共闘していたのか知ることになる。そう「自分」である。『第三部 不在の勝負師』は、読むものの内省を促す圧倒的な力に満ちている。内声と書いてもいいのかもしれない。詩集を読みながら自分の声が聞こえる。

いやもう……眠れないわ! 前田氏の第一詩集『風おどる』は癒されるので寝る前のお供にさせてもらっていたが、『氷点より深く』は絶対に寝る前に読んじゃいけない類の書物である。テンションあがっちゃうから。戦闘本能バリバリ刺激されるから。勝負したくなるから。その辺りが本当に理屈ではないのである。

結局結論が「理屈ではない」になってしまったけれど、人間そんなものだと思おう。そんな無頼さがないと、勝負なんかできないよ。それも直球の。

と、いうわけで……ご恵送ありがとうございました!

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